まもなく日本が「サラリーマン絶滅社会」を迎えることに気づいてますか?

世界で増える「新型レストラン」

昨今、世界では、ポップアップ(Pop up=ひょっこり現れる)レストランが流行しています。ホテルや空き店舗などを活用したり、1日から数日、あるいは数週間程度の「期間限定」でオープンするレストランです。

まだ自分の店を持たない若いシェフが、少ないリスクでチャレンジするために、ポップアップレストランをオープンするケースもあります。特に話題となっているのは、世界の名だたるトップシェフがリゾートホテルなどに集められ、セレブや美食家を招いてフェスティバル的な催しとしてオープンするといった“超一流”ポップアップレストランです。

その中でも注目を集めたのは、世界一と称されるデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「Noma(ノーマ)」出身のイギリス人シェフ、ジェームス・シャルマン率いる、旅するシェフ集団「One Star House Party」です。

One Star House Partyのホームページより

彼らは2年間で世界20カ国を廻り、20のポップアップレストランを営業しました。そのうちの1カ国のネパールではレストランをエベレストのベースキャンプ(なんと標高5300メートル!)に設けることを思いつき、それを実行したのです。

15人のお客と一緒に、標高2800mのネパールのルクラ空港から、テーブルや椅子、薪、調理器具や食材を担いで、8日かけて寝食を共にしながら標高5300メートルまで登山。そこで最高の料理を振る舞い、お客とともに麓まで下山するという、合計14日間の“旅するレストラン”を提供したのでした。

そもそも飲食店とは、世界で最も歴史のある産業のひとつです。が、長らく克服できない「宿命」を背負っていました。それは、場所の流動性がとても低い(立地条件が悪くなっても動かすことができない)ということです。

しかし今、その常識が変わりつつあります。腕に自信があるシェフは、ネットを駆使して「ポップアップレストラン」が可能な場所を探せば、場所を固定せず、様々な場所に出向いて料理を作ることができるようになった。彼らはもう、「場所」という制約に縛られることはなくなったのです。

このような新しいスタイルの飲食店が続々生まれたのも、ITによって人の情報の取り方と行動が変わったからです。ネットを通じて、ヒト、モノ、カネ、サービス、あらゆるものが、ゆるくつながっていて、その時その時でお互いのニーズに合わせて、新しいサービスを展開する。

魅力的なポップアップレストランが開催されると、その情報は一瞬でシェアされ、お客もスタッフも材料もレシピも、SNSやメッセンジャーを通じてフランクに集めたり共有したりすることができます。集客にも準備にも以前ほどお金はかからないから、リスクも小さく、気軽な気持ちで、楽しみながらできる――。

そんなメリットをもつポップアップレストランが、今後飲食業界の主流になっていけば、極端な話、「店を構える」型の飲食店は姿を消してしまうかもしれません。

「店が料理人を雇う」のではなく、「料理人が店(場所)を選ぶ」時代、あるいは「店舗」をもつオーナーが、季節や時代のニーズに合わせて料理人を選ぶ時代がやってくるのです。

こうした変化が起こっているのは、飲食店だけではありません。いま、ありとあらゆる産業の常識が、ネットの発達によって変わりつつあります。今後、スキルや知識を持った人は、組織に属さずに、プロジェクトごとに企業を渡り歩くようなケースが増えていくでしょう。まさに、腕のいいシェフがポップアップレストランを転々とするように、です。

大胆な予測をしましょう。私は、一般的なビジネスにおいても、このような「ポップアップ型」の働き方が主流になってくると思います。つまり、大組織には属さず、自分のスキルと知識を武器にして、様々なビジネスシーンを渡り歩くような働き方が主流になるということです。

反対に、大きな組織に属しながら、組織の命令で動き、組織のために働く「サラリーマン」は、間もなく絶滅するだろうと思っています。サラリーマンは、自らが「絶滅危惧種」であることを意識し、どうやって生き伸びるかを考えなければならない時代を迎えているのです。

「サラリーマンは絶滅する」

私がそう予測する理由を説明しましょう。

なぜ日本企業には「社風」があるのか

日本企業には、それぞれに、“社風”があります。

同じ産業であっても、トヨタと日産とホンダ、パナソニックとソニー、三菱商事と三井物産と伊藤忠商事、電通と博報堂、野村證券と大和證券、それぞれに異なる社風があって、みんなその社風を大切にしています。そして、それぞれの社員がライバル企業の社風を、“うちとは違う”と思っている。

さて、皆さんは疑問に思ったことはないでしょうか。なぜ日本企業には、それぞれの社風があるのか、と。海外には、日本企業のように色濃い社風は存在しません(もちろんグーグルやフェイスブックにも独特の企業カルチャーはありますが、それは日本の伝統的な「社風」とは違うものであることは、お分かりいただけるでしょう)。

なぜ、日本には社風が必要だったのか。それにはちゃんと理由があります。

第二次世界大戦で日本中が焼け野原となり、戦後の日本経済はどん底からスタートしました。今でも品質と技術では世界一を誇るものが多いメイド・イン・ジャパンですが、戦後しばらく日本製は「粗悪品」の代名詞でした。

しかし朝鮮特需を経て奇跡的な復興を遂げたこの国は、戦後10年ほどで高度経済成長期に入り、その後1990年台前半まで成長拡大を続けました。企業は利益を再投資して生産規模を拡大し続けたのです。その中で、大企業はより大きくなっていきました。

少品種大量生産には兵隊が必要

人々は大量にモノを消費し、企業は大量にモノを生産する。消費意欲が強いため、同じものを大量に作っても作るだけ売れる。少品種大量生産の時代が長く続きました。

そうした時に必要だった人材が、会社に対して愛と忠誠心を持ち、“社風”に染まり、画一的に決められたサラリー(給料)で、入社から定年まで一心不乱に働いてくれるモーレツ社員……すなわち「生涯サラリーマン」でした。

同じものを大量に生産しているプロセスでは、なにせ人手が必要になります。経営者にとってみれば、全員が定時に出社して一斉に仕事をし、風邪ぐらいでは決して休まず、仕事が終わらなければ自主的に残業してくれる社員は、とてもありがたい存在です。

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そんな兵隊ばかりを、とにかくたくさん揃えておきたい……そのために必要だったのが、社風だったのです。

“社風”とは、サラリーマンに仲間意識と会社愛を育て、なんだかんだと愚痴を言っても結局は会社に縛り付けて一生懸命働き続けてくれるように洗脳するための、集団催眠のようなものなのです。

「そこそこできる」が一番よかった

洗脳するためにはもちろん、純真無垢な方がいい。だから新卒を採用します。猜疑心や余計な知識がなければ、催眠術にかかってくれやすいし、集団催眠がかかったまま集団の中にいつづければ、洗脳を疑うこともない。どんなに理不尽でも、ブラックでも、それしか知らなければ疑問を持ちにくい……。だから日本の大企業はあえて、非合理的としか思えない新卒大量一括採用をしてきたのです。

かつての日本企業はそれでよかったのです。少品種大量生産をしている場合には、大量に人を雇っても、工程や、役割を細分化して、一部の仕事だけを覚えさせて、黙々と同じ仕事を繰り返させておけばよかったからです。そうやって日本の産業は高度に仕組み化されていきました。

とはいえ、人間は面白くもない仕事を延々としていると、飽きてくる生き物です。すると次第にモチベーションが下がり、会社を批判したり、隠れて悪さをしたりする人も出てきます。それを防ぐために、3年ほどで職場を変えさせます。ジョブローテーションです。そうして、広く浅く、「なんでも、そこそこ」できる便利な社員が純粋培養されます。

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それで、日本のサラリーマンは幸せだったのです。同じ社風を共有する社員同士、皆で一丸となって事業をし、ライバルと戦い、叱咤激励し合い、酒を飲んで適度なガス抜きをし、社内恋愛や紹介お見合いで親戚となり、家族ぐるみの付き合いをする。

定年まで忠実に働く代わりに、首を切られることはなく、給料は一律にある程度まで上がり、60歳まで勤め上げれば数千万円の慰労金がもらえる。さらに、老後まで企業年金で面倒を見てくれる。サラリーマン万歳です。転職なんてもったいなくてできるわけがない。

欧米式が日本式を駆逐する

しかし、そんな特殊な会社の仕組みが出来上がったのは日本ぐらいでした。

欧米の大手企業は、飛び抜けて優秀なプログラマーでもない限り、新卒を採用したがりません。知識もビジネススキルもなく、マナーも知らず、手がかかり、2、3年も経たないとマトモに利益を上げてくれない若者を、大量に採用することはありえません。

GoogleやApple、Facebookなど人気企業は、能力が高く、知識と経験を積んだ、即戦力人材を採用します。テクノロジーの先端で競争していますから、何もできない新人を育てる暇などないからです。

それらの人気企業で働くことを志す若者は、まずは自分を採用してくれる企業(中堅、ベンチャー、大手の子会社など)に低い給料で就職し、下働きをしながら経験とスキルを積み、MBAや情報系の資格を取るなどして自分の市場価値を高め、人気企業に自分をプレゼンして転職するのです。そうして転職しながら自分の給料を上げていきます。

日本の新卒一括採用に始まる「生涯サラリーマン」制度は、もはや化石のようなもの。世界のどこにもありません。企業側にメリットがないからです。

大量生産大量消費社会ははるか昔に終焉し、少量多品種生産になって久しい。多様化する価値観に合わせて次々に新しい商品やサービスを生み出していかなければならない時に、同じ会社で同じように育てられ、同じ知識と経験しかもたない画一的なサラリーマンなど、もはや使いようがないし、不要なのです。

決して誇張ではない

大量生産大量消費社会が終焉に向かっているいま、日本の大企業は、今すぐ新卒一括採用をやめたほうがいいのです。新卒採用で同期1000人といったビジネスモデルは、もう破綻しています。

数ヶ月単位で世界のビジネスモデルが変化していくような時代に、3年かけて悠長に人を育てていく企業は、ついていけません。人手が欲しいのであれば、中国や東南アジアやインドなどから優秀な人を採用した方が手っ取り早い。

新卒は戦力になるまでに、つまり「投資を回収するまで」に時間がかかりすぎる。一方で、日本においても転職市場が成熟してきたことで、「一から人を育てるなら、優秀な人材を転職市場から獲得しよう」と考える企業が増えるのは必然です。

人件費や研究開発費は、「将来うまれるであろう利益の先食い」ですから、企業としても「新人」に投資する意味が薄れていきます。Yahoo! JAPANは昨年から新卒一括採用を廃止し、通年の経験者採用に切り替えました。賢明な判断です。

いや、とはいえ、「サラリーマンというビジネスモデルが破綻する」というのは誇張表現ではないか。生涯雇用は破綻して転職が当たり前の世の中になったとしても、仕事をするのはあくまで社員。サラリーマンには変わりないだろうという意見があるでしょう。

しかし、それすら変わってきているのが現実です。世界では、様々な革新的なプロジェクトが「プロジェクトベースで集められたプロフェッショナル集団」によって行われる時代になってきています。

そのプロジェクトが重要で革新的であればあるほど、大企業やあるいは資本家は、お金とインフラのみを用意し、社員ではなく、フリーランスやベンチャー組織など、その目的を達成できる能力のある人に声をかけ、特命のプロジェクトチームによってその事業を進めていく――そういう世界になってきているのです。

車を例にあげましょう。従来の新型自動車の開発は、社員の中でも特別なメンバーだけが集められ、社外の人は決して入れないような場所で秘密裏に行われていました。デザイナーもエンジニアも、社員にならないと参加できません。秘密裏にことを進めるため、新型車の企画から発表まで6年ほどかかる……という世界です。

車の作り方に訪れた変化

しかし今、世界のEV(電気自動車)ベンチャーはまるで違った方法で車の開発を進めます。世界にはテスラ社をはじめ無数のEVベンチャーがありますが、フリーランスがプロジェクトチームを組んで、大企業からお金を募って開発を行うのが当たり前になりつつあります。

世界各国のオフィスから参加する彼らは、クラウド上の3DCADシステムを使ってリモートに開発を行うので、同じ場所にすらいない。オンラインで繋がれた3Dプリンターによって試作品の作成すらもリモートでできます。組織の中でしか完結できなかった仕事が、いまはネットで優秀なメンバーを集めることで実行可能になっているのです。

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今後、新型の自動車開発やベンチャー企業だけではなく、ごく当たり前の仕事でも、このような「クラウド型の仕事」によるプロジェクトが広まっていくことは間違いありません。ひとつの製品を作るうえで、それを企画する人が、クラウド上で、デザイナー、エンジニア、営業マン、経理を集めて、最適なものを作っていく。その後、また別の製品を作るときには、狙いにあったものを作れる人材をクラウド上で集めていく――。

ソフトバンクの孫正義氏が40億ドルを投じたことで話題になった、「WeWork」という米ベンチャー企業があります。これは、起業家向けのコワーキングスペース(共同作業所)を提供するサービスですが、これを利用して、オフィスを持たずに働く「集団」が急激に増えています。会社に所属するのではなく、自分たちで組織を作って、メンバーを増やしていく。

彼らが大企業に「新しいプロダクト/サービス」を提案することもあれば、反対に、大企業が組織内の社員にではなく、彼らのような「集団」に大きな案件を発注していく……そんな生き方、働き方が主流になる時代が来るのです。これは、まさに冒頭でみた「ポップアップレストラン」と同じ発想です。いわば、これからの社会では「ビジネスのポップアップ化」が進んでいくのです。

こうしたやり方が一般的になっていけば、もはや会社の「兵隊」たちは必要なくなっていきます。つまり、軍隊型の生産組織から、遊軍的な生産組織へと「生産の常識」が根底から変わっていくなかで、「組織型サラリーマン」は、日々日々必要な存在ではなくなっていくのです。

だから私は、「サラリーマンは消滅する」と予見するわけです。

実はこのことに気づいているかどうか……つまり、「サラリーマンは絶滅危惧種」であり、生き残る方法を考えなければならない、ということに気づくかどうかで、あなたの働き方、そして生き方は随分と変わっていくはずです。

今日も明日も上司の言うがまま、まさに兵隊的な働き方をしていては、10年後、いや5年後にいきなり「ご苦労さん、もう君の闘いは終わったよ」と会社に見放されることは、十分に起こりうることなのです。

会社を今すぐ辞めろ、というわけではありません。まずは自分が「絶滅危惧種」に属しているかもしれないことを意識し、自分の働き方を、そして生き方を見直すことが必要なのです。

一刻も早く「脱サラリーマン思考」を手に入れること。それが、これからの時代を生き延びるためには必要なのです。

構成/嶺竜一。三戸政和氏のツイッターアカウントはhttps://twitter.com/310jpn