金持ち優遇の不公平。消費税UPの裏で相続税は20%も減税していた

財源不足を理由に消費税の税率が引き上げられようとしていますが、実は相続税が75%から55%に大減税されていた事実をご存知でしょうか。しかも様々な減免措置等により、相続人の実質負担割合はさらに低い、という信じがたい現状を暴露するのは、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、相続税が下げられた意外な理由を明かすとともに、「最低でも3割程度の税金を払うべき」とし、その根拠を記しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2018年9月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

知らない間に相続税は大減税されていた!

あまり知られていませんが、この30年間相続税は下げられっぱなしになっています。1987年までは最高税率は75%だったのが、2003年では50%にまで下げられているのです。昨今、貧富の格差が社会問題となり、さすがに相続税の税率を下げすぎたということになり、2013年の税制改正で若干、引き上げられましたが、それでも55%です。1987年の最高税率よりは20ポイントも低いのです。

バブル崩壊以降、財源不足を理由に、消費税が導入され、さらに2度も税率が引き上げられ、社会保険料も上げ続けられたにもかかわらず、相続税だけがこっそり大幅に下げられていたのです。しかも、昨今の相続税の減税のされ方を見ると、「大金持ちを最大限に優遇しているのがわかります。

平成15年度の改正以前は、20億円を超える遺産をもらった人に、最高税率の70%が課せられることになっていました。が、現在は、6億円を超える人が最高税率の55%となっています。遺産が6億円を超えれば、それ以上はいくらもらっても税率が上がることはありません

つまり、7億円もらっても、30億円もらっても税率は同じということになっているのです。超資産家ほど優遇しているのです。

「共産主義の崩壊」で相続税が下げられた

相続税が下げられた要因は、諸々ありますが、一番大きいのは、共産主義国家の崩壊です。1980年代の後半に、ソビエト連邦をはじめとする東欧の共産主義国家が相次いで崩壊し、東西冷戦が終了しました。それ以降、西側の先進国では相次いで相続税が下げられたのです。

なぜ共産主義国家が崩壊したら、相続税が下げられたのか? 疑問に持つ方も多いでしょう。そもそも、相続税というのは、共産主義が世界を席巻し始めたころにつくられた税金なのです。

19世紀後半から20世紀前半にかけて、貧富の差が拡大し庶民の不満が高まり、共産主義が勃興してきました。そのため、先進国の政府は、貧富の格差を解消し、庶民の不満をなだめるために、相続税が取り入れられたのです。

しかし共産主義国が崩壊したので、西側の先進国たちは、貧富の格差にそれほど気を配らなくてよくなりました。「資本主義こそが正しい経済思想だ」とばかりに、企業や投資家に限りなく自由を与え、便宜を図る政策を採り始めたのです。その最たるものが、相続税の大減税でした。

欧米各国は、相続税の税率を下げたり、免除枠を拡大するなどして、富裕層の相続税負担率を大幅に引き下げました。フランスなど、相続税の廃止を打ち出す国も出てきました。日本もそれに便乗したのです。

相続税の対象者というのは、国民の1割もいません。だから、選挙対策とするならば、相続税を下げる必要はあまりないはずで、むしろ、他の税目を減税すべきです。なのに、なぜ相続税が下げられたかというと、相続税対象者が政治献金をしている場合が多いからです。

そもそも政治家というのは、富裕層財界などの献金で支えられているので、富裕層の機嫌を取るために相続税を下げたのです。が、そのため、2000年代に入って、先進国は深刻な格差社会に悩まされることになりました。昨今、欧米を震撼させているテロなども、貧富の格差が背景にあるのです。

欧米の政治家たちは、大きな勘違いをしていたのです。共産主義が崩壊したのは、彼らの社会が平等だったからではありません。むしろ、不平等だったからなのです。ソ連の末期、労働者の平均所得の半額となる75ルーブル以下の最貧困層は3,576万人もいました。ソ連の貧困層と最貧困層を含めた人数は、国民の35%だったという説もあります。

その一方で、共産党幹部などの50万人は、月500ルーブル以上の年金をもらっていたのです。また共産党幹部の子弟は、裏口入学で高等教育を受けられたり、縁故による就職、昇進がまかり通っていました。そういう国民の不満が共産党への不信となり政権が崩壊したのです。

欧米の政治家たちは、その事実を無視し「資本主義こそが絶対的な善」という考え方になったのです。

世界中で格差が深刻化

日本でも、貧富の格差は昨今、大きな社会問題となっています。あまりマスコミなどで報じられることはありませんが、昨今、富裕層の減税をし過ぎたために億万長者が激増しているのです。

それは、外資系証券会社などの発表データでも表れていますし、国税庁のデータでも表れています。世界的な金融グループであるクレディ・スイスが発表した「2016年グローバル・ウェルス・レポート」によると、100万ドル以上の資産をもっている日本人は282万6,000人だったそうです。前の年よりも74万人近く増加しており増加数は世界一なのです。

その一方で、OECDの発表では、先進国34の中で、日本は7番目に貧困率が高い国となっています。

バブル崩壊以降、日本人の多くは「日本経済全体が苦しいんだ」と思い込んできました。しかし、そうではないのです。ほとんどの国民は、収入が下がり、資産を減らしている中で、富裕層だけが肥え太ってきたのです。

相続税は高いのか?

2015年の税制改正で、相続税の最高税率は55%となりました。この55%という数字だけを見ると、相続税は高いように感じるかもしれません。「資産の55%も税金で取られるのはかわいそうだ」などと思う人もいるでしょう。しかし、ここには数字のトリックがあるのです。

富裕層や税務当局は、相続税の“55%”という税率だけを持ち出し、“高すぎる”と主張してきました。しかし相続税の全貌を知れば、それが高すぎるとは絶対に思われないはずなのです。というのも、相続税には、あれやこれやの抜け穴があり、実際の税負担は非常に低いのです。

普通の人は、「相続税の税率は55%」と言われると、遺産の55%が税金で持っていかれるような印象を持つでしょう。しかし、55%というのは名目上のことであって、実際には驚くほど税金は低いのです。相続税の最高税率55%が課せられる人というのは、超大金持ちです。普通の金持ちくらいでは、相続税はせいぜい10~20%程度しかかかってこないのです。

6億円超の遺産をもらったからといって、そのまま55%の税率が課されるわけではありません。7,200万円もの控除額(割引額)がありますし、家族構成や遺産の内容によって、さらに割引があります。しかも、この6億円というのは親族全体の遺産額ではなく、遺産をもらった遺族一人あたりの遺産額のことです。遺族というのは、だいたい4~5人いるものなので、一人あたり6億円もらえるということは、遺族全体で20~30億円の遺産がある場合なのです。

また相続人の中に、配偶者がいれば、遺産の半分までは相続税は免除されますから、相続税額は半減になります。しかも、相続財産の中に、住居があれば、土地の価格を大幅に減免する制度もあります。それやこれやで、遺産が10億円くらいまでならばだいたい税率は10%以下になってしまうのです。

毎年発生する日本全国の「遺産」に対して、相続税として徴収している割合はわずか4%程度なのです。つまり、遺産全体に対する相続税の実質負担割合は4%に過ぎないのです。

筆者としては、何億円も遺産をもらっているのであれば、最低でも3割程度の税金を払うべきだと思います。その人の資産というのは、その人だけの力で築いたものと思われがちだが、決してそうではありません。社会インフラ、教育制度、治安の良さなどなど、社会の高い文化性があるおかげで資産を築けたわけです。

たとえば、いくら能力があったとしても、不公正で治安が悪い国に生まれれば、その能力を伸ばすことも発揮することもなかなかできないはずです。そして、世界中にそういう国は、多々あるのです。日本のような治安が良く教育環境経済環境が整っている国だからこそそれだけの資産を築けたわけなのです。

だから、日本で莫大な資産を築いた人は、死んだときに最低でもその3割くらいは社会に還元すべきだと思うのです。

相続税の税率の推移

  • 昭和63(1987)年改正以前
    最高税率:75%(もらった遺産が5億円超の場合)
  • 昭和63(1987)年改正後
    最高税率:70%(もらった遺産が5億円超の場合)
  • 平成4(1992)年度改正後
    最高税率:70%(もらった遺産が10億円超の場合)
  • 平成6(1994)年度改正後
    最高税率:70%(もらった遺産が20億円超の場合)
  • 平成15(2003)年度改正
    最高税率:50%(もらった遺産が3億円超の場合)
  • 平成25(2013)年度改正
    最高税率:55%(もらった遺産が6億円超の場合)
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